僕と猫の物語 5
影と光なら、どちらを選ぼうか。
もう、選択がせまられている。
ぎりぎりの時が来た。
相変わらず闇にとざされた僕の心に
君はいきなりまばゆいばかりの
輝きを解き放ってくれたんだ。
人というものは、ものすごい能力を持っている。
人を救うことも、人の命を奪う事も、その両方が可能だ。
後者の能力は、与えられたものでありながら
現実のものにすると、
その人は狂気をさまようことになるようだ。
彼は、もうすでに自分を抑える事ができなくなっていた。
お気に入りの長男が、自動車免許を取得しに通いだした。
その最終試験の日、長男の帰りを待つ彼の右手には鉈が握られていた。
後日、長男は
「俺、あのときすべってたら、オヤジに殺されてたかもしれねえ~~」
と語った。
そんな歯止めのない、夢遊病のような日々の果て、
酒を浴びるように飲んで、彼は亡くなった。
心に残るのは、10歳になったばかりの
幼い息子のことだった。
彼の御霊は静かに旅立ち、
故郷へ向かった。
大勢の御霊とともに彼は
神に出逢った。
「おう、来たか。まあ、座れよ」
そんなことを神が言ったかどうか知らないが、
彼は、これまでの所業の果てに
一匹の猫の姿に変えられてしまった。
『お前はこれから猫として人生を送るのだ。
これまで、人を人とも思わぬ人生を送ってきたのだから、
しばらくその身体で、生きてみろ」
こいつ、本当に神か?
などと思っていると、
突然、柔らかな神らしい
笑顔になり、
「だがな、もしその姿のお前を
本当に愛してくれる人間に出逢えたら、
お前は、また、人間になることが
できるかも、しれないなあ」
とやさしい瞳で語った。
どこかで聞いたような話だと思いながら、
ふと、文句を言おうとすると口から出た声は、
にゃあ~~という、情けないものだった。
ちょっとナーバスになり、
天空から下をみると、
外界はもう、
時が流れていた。
あの息子が、
すっかり大人になり、
結婚して嫁と暮らしていた。
しかし、その仲は上手く行かず、
もめている様子だ。
彼は迷わず、
「よう、神、俺をあそこに行かせてくれないか」
と、叫んだ。にゃ~にゃ~にゃ~~~!と。
神は静かに微笑んだ。
彼の姿は一瞬のうちに天空からかき消えた。
(つづく)

この記事へのコメント